2012年10月28日

宝塚宙組公演「銀河英雄伝説」

宝塚宙組公演「銀河英雄伝説」を観る。

舞台は、2800年代の銀河宇宙。
人類が銀河帝国と自由惑星同盟に分かれて争う。

銀河帝国の指揮官ラインハルトに宙組トップお披露目の凰稀かなめ。
容姿端麗という表現がぴったりのスターで
トップにすわって演技も落ち着いて充実してきた。
相手役の実咲凛音も大役をこなしている。
対する自由惑星同盟のヤン准将に緒月遠麻。

凰稀かなめの副官的な役割として、
天使のような幼馴染みの善人と
悪魔のような冷徹な副官の対照的な二人が登場する。
その一人悠未ひろの冷徹なオーベルシュタインの演技がいい。

ところで、ゲームの世界では有名なお話しということであったが、
私は関心もなく、観劇前はあまり期待していなかった。
原作者の田中芳樹という作家の名前もこの作品で初めて知った。
しかし観劇後は脱帽、素晴らしい構想の作品である。

科学が進歩した800年先の未来で、
核戦争で汚染された地球を捨てた人類が宇宙で生存している。
そしてその未来は、人権が尊重されているわけでもなく、
20世紀と同じ人類同士が相争う戦争が行われている。
はたまた今より中世に逆戻りしたかのような貴族も出現しており、
強烈に未来と過去が交錯する。
その原作は聞くと登場人物300人にも上る10巻に及ぶ大作だそうである。

学生時代、私たちの世代の多くの心をとらえた唯物史観によれば、
人類の歴史は発展するものだった。
将来は貧富の差が少なくなり、
より豊かな未来が待っていると考えていた。
その歴史観が夢であることは、
ソ連邦の崩壊など歴史的事実が教えてくれたのだが、
この小説の未来はどうだろう。
「歴史は繰り返す」というがそれも一つの史観だろうか。

この作品は、本物の歴史を題材にしていない
全くの創作であることから自由に人物像を創出できる。
その主人公は、現在のそして過去の人類のリーダーたちの典型的な
そして普遍的なあり方をより端的に投影したものであろう。
悠未の役と朝夏の役の二つの対照的な役柄も、
いずれも武将の副官の典型的なありかたである。

そしてまた、タイトルに「伝説」とあるように、
この作品は2800年のさらにその先の未来からみた
過去の英雄たちの歴史として構成されている。
そう、この作品は未来の歴史物なのだ。
宝塚でも多くの歴史ものが上演されているし、
私は歴史ものが大好きであるが、
この作品は、ちょっと趣向を変えた、歴史物だと悟った次第である。

ところで、今回男性の観客が多かった。
テレビゲーム好きの男性ファンが
初めて宝塚の舞台に足を運んだとしたら幸いである。

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