2006年11月
東京宝塚劇場 星組公演
「愛するには短すぎる」
「ネオダンディズム」
東京宝塚劇場星組公演は、宝塚の伝統的な、男役らしい男役「湖月わたる」の退団公演であったが、もっと何かを求め、そして立ち去りがたい感情をほとばしらせた多くのファンに、人生の一幕をコラージュのように取り出して、そのスターのステージを重ね合わせて演出した納得のいく舞台であった。
ひまわりのすみれステージ観たままトーク
「愛するには短すぎる」の舞台は、まだ米国と欧州が航空便ではなく大西洋航路で結ばれていた時代。湖月わたる演ずる青年「フレッド」は、その豪華客船で英国留学から帰米の4日間の船旅。小さい頃父を亡くし、造船会社の社長に見いだされその養子として育てられるが、見事その期待に応えて令嬢との結婚と企業の承継者の地位を約束されている。そこに突然現れた幼なじみ。二人は本心は激しく惹かれ合うも現実は・・・というストーリーだ。
この白羽ゆりの美しいヒロイン「バーバラ」と湖月の「フレッド」との流れに、感情赴くままに生きる対極的な人生観を持つ安蘭けい演ずる劇作家「アンソニー」がことごとく絡む。この二人の芝居のやりとりは、コメディの感覚として一級品、安蘭が存分にその実力のほどをみせてくれて観るものを楽しませてくれる。 併せて、新人公演主役の涼和希と陽月華のコンビのスターダムにのし上がるための恋人同士の体をかけた狂言や、不倫の隠蔽のために不倫相手のお相手に協力させられてしまう話や、船内で発生する宝石窃盗など、いくつかの脇筋が、湖月と白羽の純愛をそれなりに浮かび上がらせる対比軸をもってちりばめられている。そしてそれらの場面で実にタイミング良くあらわれる専科未沙のえる演ずる執事の何ともいえぬ演技。そして湖月と安蘭の本筋の軽妙洒脱でテンポのいいリズミカルなストーリーの流れ。これらはニールサイモンの本による芝居を彷彿とさせる。正塚作品の面目躍如といったところだろうか。
併せて、ショー、ネオダンディズム。大劇場、東京宝塚劇場の本公演は今年は、星・雪のベルばら続演、宙のNever say good-bye, 花のファントムと、一本ものが多く、本格的なショーがなかった。岡田啓二作品の久々の登場、それも宝塚ならでは男役ダンサーの魅力を存分に演出する作品とあって、ダンディズムを堪能させていただいた。燕尾の男役の群舞、星組はまた揃っている。ほかにも星の場面などが印象に残る。
ダンディズムは、男の生きるスタイルである。人生観、人生哲学の一本筋の通った男だけが持つ輝きである。言い換えれば男の「生き様」である。信念のないところにダンディズムはない。それは生きる上での「スタイル」であり「形」である。余談であるが、私が私なりのダンディズムを体現するために、そのバイブルとする本はあの「ローマ人の物語」を書いた尊敬する大作家「塩野七生」の「男たちへ」である。自分を磨き、かっこよく生きたいと願う男性にとって必須の座右の一冊である。