2007年08月01日

目から鱗の江戸暮らし~江戸しぐさ

●江戸の商人達が磨きあげた人付き合いのノウハウ 
第1回目は“江戸しぐさ”のお話。
ここ2、3年、公共広告機構のポスターやテレビCMで“こぶし腰浮かせ”(舟の乗客が、後から乗ってきた客の為にこぶし分だけ腰を浮かせて席を詰めるしぐさ)や“傘かしげ”(雨や雪の日、互いに濡れないように傘を人のいない外側にすっと傾げてすれ違うしぐさ)といった言葉を目にされた方も多いのでは?
 そもそも江戸しぐさとは、江戸の商人達が、町が安泰で商売が繁盛するためには客とどのような関係を築けば良いかと知恵を絞り、工夫を重ねて磨きあげた人付き合いのノウハウをベースにしたものです。そのため“繁盛しぐさ”とか“商人しぐさ”とも呼ばれています。その後、商人道を超えて、見よう見真似で江戸の人々に広く行き渡り、親から子へ伝承されてきました。

●肝心なのは、その背後にある心構え
傘かしげ”や“こぶし腰浮かせ”が有名になった為、このようなパフォーマンス=江戸しぐさと理解されているようですが、これらは稚児しぐさと言って、幼少期に身につけておくべき江戸しぐさの第一歩にしか過ぎません。
単なるマナーではなく、肝心なのは、その背後にある心構えです。体を肥やすことよりも心を豊かにすべしという“お心肥”は江戸しぐさの真髄とも言える言葉。足を踏まれた場合でも、とっさに避けられなかった自分のうかつさを恥じる“うかつあやまり”。初対面の人には年齢、職業、地位を聞かない“ 三脱の教え”。異なる意見も取り入れるのが“尊異論”。「でも」「だって」「そんなこと言っても」のような、相手を中に入れようとしない“戸閉め言葉”は禁句、等々。

●共倒れしない為の知恵 “イキ”という共通の価値観
 これら江戸しぐさの根底にあるのは、“共生”の思想です。世界一の百万都市(人口密度は現代よりも過密だった)であった江戸。共生というよりは、共倒れしない為の知恵であったかもしれません。そして、大事なのは、こうしたしぐさが体に染みつきさっとスマートにできるのが“イキ”とされたことです。“イキ”という共通の価値観を有していたからこそ江戸しぐさも浸透していったのでしょう。
 江戸しぐさは、江戸の町方の間で口伝えされてきた文化であり、文章化されていないために歴史書はもちろん、小説にさえ登場しません。いわば商売の極意を広めたくなかったこともありますが、文章化すると単なるマニュアルとしてしか受け止められなくなる恐れが大きかったからだとされます。人間関係を円滑にする知恵が満載のこの“江戸しぐさ”。私達現代人こそ、その形ではなくまさにその真髄を学ぶべきだと思われませんか?(もう形式マニュアル本を作った会社があったりして…)

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